こんにちは、うみぶどうです。
季節はすっかり冬。こちらは先日から雪も降り始め、たくさんの蔵が今まさに最盛期を迎えようとしている。
さて、よくテレビで酒蔵が紹介されたり、個人で蔵見学をしたりする際に「蔵の中に入る時は納豆を食べてはいけない!」と言われることがあると思う。
「お酒と納豆に何の関係が?」と思われるかもしれないが、微生物を使っている仕事上、コンタミを防ぐというとても大切な意味がある。
今回はそんな「コンタミネーション」(以下コンタミ)について解説していこうと思う。
コンタミとは?
コンタミネーション(英語: contamination)という言葉は様々な分野で使われるが、生物学的な意味に限って言えば「雑菌汚染」や「微生物汚染」のことだ。
つまり、微生物を使った実験中に目的としている菌・微生物以外のものが増殖してしまったり、その余計な微生物の増殖によって目的の微生物の増殖が阻害されたり、死滅してしまったりすることを「コンタミ」と言う。
日本酒の酒蔵だと、主に黄麹菌(Aspergillus oryzae)や清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae)といった微生物が活躍しているので、それ以外の微生物が増殖してしまうことをコンタミと呼んでいる。
なぜ蔵人は納豆を食べてはいけないの?
ではなぜ蔵人は納豆を食べてはいけないのだろうか。
先ほど書いたように、酒蔵では麹をつくるために黄麹菌という菌を使っている。
しかし、生育環境が似ている微生物同士は共存するということはあまりなく、強い菌が弱い菌を駆逐するまで追いやってしまう。
例えば麹をつくっている麹室の中に納豆菌(枯草菌)が入ってしまうとどうだろう。
より生命力の強い納豆菌が麹菌が増えるより先に増殖してしまい、最悪の場合「ヌメリ麹(スベリ麹)」という使い物にならない麹が出来上がってしまう。
さらに言うと、微生物は指数関数的(ねずみ算式)に増殖するので、最初に混入した菌体数はあまり関係ないと言ってもいい。
麹の初期段階で少しでも混入してしまうと大変なことになるのだ。
よって「まず納豆菌を持ち込まない!」ということが大切になるというわけだ。
キムチやヨーグルトも食べちゃダメ!
納豆を食べてはいけない理由は分かっていただけたと思う。
では納豆以外にも食べないほうがいいものはあるのだろうか。
結論から言うと、発酵食品全般だ。
例えば、キムチやヨーグルト。
現代の日本ではメジャーな発酵食品だが、どちらも酒づくりにおいては大敵となる乳酸菌を用いた発酵食品である。
「お酒づくりには乳酸菌が必要なんじゃないの?」と思われる方もいるかもしれない。
しかし、これは半分正解で半分不正解。乳酸菌の中にはお酒に悪さをするものもいるのだ。
代表的なものに、火落菌(ひおちきん)というものがある。
Lactobacillus fructivorans やL. hilgardii という菌が有名だが、これらが発酵中の醪(もろみ)や清酒中に混入することにより、大量の酸を生産したり酒を混濁(濁らせる)させたりして、酒質を大幅に落としてしまうのだ。
また通常の乳酸菌であればアルコールが含まれている醪や清酒中では生きていけない(生育阻害を受ける)が、火落菌はアルコール耐性が強く、最高25%(!)のアルコール中でも生育する。
そのような理由から、酒蔵に入る際には納豆以外の発酵食品も食べないほうが良いのだ。
コンタミを防ぐためにしているそのほかのこと
こういったコンタミを防ぐために、酒蔵では食べ物以外でもいろいろな方法でお酒を守っている。
当たり前となっていることも含めると、
- 気温の低い冬季に限定して醸造を行う
- 生酛ではなく速醸をメインとした造りを行う
- 衛生手袋をつけて作業を行う
- 服を上下とも専用のものとし、土足では蔵に入らない
- 醪、洗米といった担当ごとに人員を完璧に分ける
などが挙げられる。
こうして見てみると、一般的な食品を扱う企業と何ら変わりない部分もあると思う。
しかし食生活も含め、これも蔵によってやっていることは様々。
皆んなで担当の仕事をローテーションしている蔵もあるし、毎日納豆を食べている蔵人だっていると思う。
さいごに
長くなってしまったが、コンタミとそれを防ぐために納豆を食べてはいけないと言うことがわかっていただけただろうか。
酒づくりにおいてかなり重要なことだが簡単なことでもあるので、蔵を見学したりする際にはぜひこの記事を思い出して欲しい。
コメント